中小企業の実状を考えていない研究開発税制-1
著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始
控除限度額の拡大と繰越控除制度の創設
研究開発税制(税法上の言い方は「試験研究税制」)とは、企業(個人・法人を問いません)が行う研究開発活動を支援するために、研究開発活動にかかった経費のうち税法で定める要件に該当するものを基礎として算出した金額だけ、法人税を減額する制度のことをいい、この中にはいくつかの措置があるのですが、通常は研究開発税制(試験研究税制)というと、 研究開発費のうち税法で定める条件に適合する金額の10%前後の金額だけ法人税を減額する措置を言います。
これを、「試験研究費の総額に係る税額控除」と言います。
特別控除額(減税額)
「試験研究費の特別控除」の対象となる研究開発費とは、研究開発のためにかかった、材料費、人件費、経費と、研究開発を他の会社などに委託した場合の委託研究費です。
また、研究開発専門の社員がいない会社でも、この制度の適用は受けられます。
中小企業では、製品の製造や加工に携わっている社員が、必要に応じて新製品・新技術の開発や既存の製品・技術の改良活動をするのが普通ではないでしょうか。
この減税制度の利用状況について国が行った調査がありますので、少し加工してご紹介します。
研究開発減税(「試験研究費の総額に係る税額控除」)の利用状況
(財務省「法人税関係租税特別措置の適用実態調査(平成27年2月国会提出)」より)
この減税制度を利用している会社の60%は、資本金1億円以下の会社です。
しかし、金額で見ると、研究開発減税総額の93%は資本金が1億円を超える会社が享受しています。
減税の恩恵の93%を資本金が1億円を超える会社が享受している理由の一つは、減税を受けるための要件が、「中小企業にとって利用しやすいものになっていない」ことです。
「試験研究費の総額に係る税額控除」には、制限があります。
研究開発費(試験研究費)を支出した年度の法人税額の25%が控除額の上限となっています。
この金額を超える金額は切り捨てられます。
つまり、赤字会社や繰越欠損金があるために法人税がゼロの会社には適用される余地はありません。
(注) 日本を除く主要国では、支出した年度で法人税額から控除し切れなった金額は、翌年度以降の法人税額から控除されるか
又は現金で還付される等の措置が講じられています。
中小企業には赤字法人が多い上に、研究開発を活発に行った年度はその分利益を圧迫するために、欠損(赤字)になるか、利益を計上しても平年に比べて少額となることが多くなります。
赤字法人が多く、さらに利益水準が低い、多くの中小企業にとって、活発な研究開発活動をしても(多くの研究開発費を支出しても)支出した金額に見合った控除を受けるチャンスは、大企業に比べて非常に少ないのが現状と思います。
多くの場合、研究開発の成果が企業業績に反映されるのは、翌年度以降になります。
大企業では、その年度の研究開発費に対する税額控除を、過年度の研究開発活動の成果が現れたことによって得られた利益に対する法人税から控除を受ける、というサイクルが継続することが多いと思いますが、中小企業は基本的にニッチ産業であるために、同時に多くの種類の研究開発活動をすることが困難なことが多いため、大企業に比べて、このサイクルが継続しない場合が多いと考えられます。
つまり現在の研究開発税制は、中小企業の実態を考慮しない設計になっています。
このため、中小企業の新製品開発などに対する税制面での後押しは、広く行き渡ってはいません。
研究開発税制は、多くの中小企業にとって研究開発活動を促進する誘因とはなっていないと思います。
それについては次回お話しをさせていただきます。
研究開発税制(税法上の言い方は「試験研究税制」)とは、企業(個人・法人を問いません)が行う研究開発活動を支援するために、研究開発活動にかかった経費のうち税法で定める要件に該当するものを基礎として算出した金額だけ、法人税を減額する制度のことをいい、この中にはいくつかの措置があるのですが、通常は研究開発税制(試験研究税制)というと、 研究開発費のうち税法で定める条件に適合する金額の10%前後の金額だけ法人税を減額する措置を言います。
これを、「試験研究費の総額に係る税額控除」と言います。
特別控除額(減税額)
資本金が1億円以下の会社および個人 | その年度の「試験研究費」の12% (但し、その年度の法人税額・所得税額の25%が限度) |
資本金が1億円を超える会社 | 売上高に対する試験研究費の割合に応じてその年度の「試験研究費」の 8~10%(但し、その年度の法人税額の25%が限度) |
「試験研究費の特別控除」の対象となる研究開発費とは、研究開発のためにかかった、材料費、人件費、経費と、研究開発を他の会社などに委託した場合の委託研究費です。
また、研究開発専門の社員がいない会社でも、この制度の適用は受けられます。
中小企業では、製品の製造や加工に携わっている社員が、必要に応じて新製品・新技術の開発や既存の製品・技術の改良活動をするのが普通ではないでしょうか。
この減税制度の利用状況について国が行った調査がありますので、少し加工してご紹介します。
研究開発減税(「試験研究費の総額に係る税額控除」)の利用状況
(財務省「法人税関係租税特別措置の適用実態調査(平成27年2月国会提出)」より)
会社の区分 | 利用会社数 | 減税額(全体の金額) | 1社当りの減税額 |
資本金1億円以下 | 5,171社(60%) | 21,415百万円( 7%) | 4,141千円 |
資本金1億円超(資本金1億円以下の子会社を含む) | 3,504社(40%) | 269,827百万円(93%) | 77,005千円 |
合計 | 8,675社(100%) | 291,242百万円(100%) | 33,573千円 |
しかし、金額で見ると、研究開発減税総額の93%は資本金が1億円を超える会社が享受しています。
減税の恩恵の93%を資本金が1億円を超える会社が享受している理由の一つは、減税を受けるための要件が、「中小企業にとって利用しやすいものになっていない」ことです。
「試験研究費の総額に係る税額控除」には、制限があります。
研究開発費(試験研究費)を支出した年度の法人税額の25%が控除額の上限となっています。
この金額を超える金額は切り捨てられます。
つまり、赤字会社や繰越欠損金があるために法人税がゼロの会社には適用される余地はありません。
(注) 日本を除く主要国では、支出した年度で法人税額から控除し切れなった金額は、翌年度以降の法人税額から控除されるか
又は現金で還付される等の措置が講じられています。
中小企業には赤字法人が多い上に、研究開発を活発に行った年度はその分利益を圧迫するために、欠損(赤字)になるか、利益を計上しても平年に比べて少額となることが多くなります。
赤字法人が多く、さらに利益水準が低い、多くの中小企業にとって、活発な研究開発活動をしても(多くの研究開発費を支出しても)支出した金額に見合った控除を受けるチャンスは、大企業に比べて非常に少ないのが現状と思います。
多くの場合、研究開発の成果が企業業績に反映されるのは、翌年度以降になります。
大企業では、その年度の研究開発費に対する税額控除を、過年度の研究開発活動の成果が現れたことによって得られた利益に対する法人税から控除を受ける、というサイクルが継続することが多いと思いますが、中小企業は基本的にニッチ産業であるために、同時に多くの種類の研究開発活動をすることが困難なことが多いため、大企業に比べて、このサイクルが継続しない場合が多いと考えられます。
つまり現在の研究開発税制は、中小企業の実態を考慮しない設計になっています。
このため、中小企業の新製品開発などに対する税制面での後押しは、広く行き渡ってはいません。
研究開発税制は、多くの中小企業にとって研究開発活動を促進する誘因とはなっていないと思います。
それについては次回お話しをさせていただきます。
「研究開発」は、税務や会計において特殊な分野です。
研究開発に関する税務や会計は、当事務所の得意分野です。
内閣府や文部科学省の政策立案担当の方々が当事務所を訪れたこともあります。
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