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2018年6月11日|カテゴリー「研究開発税制についてのコラム
中小企業の実状を考えていない研究開発税制-2
税理士 兵頭始 著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始
前回は、「試験研究費の総額に係る税額控除」制度は、試験研究費を支出した年度の法人税額の25%が上限となっている (「繰越控除」や「繰戻し還付」などの措置はない)ことを述べ、そのために赤字法人が多く利益水準の低い多くの中小企業にとって、活発な研究開発活動をしても支出した支出した金額に見合った減税(税額控除)を受けるチャンスは大企業に比べて非常に少なく、現在の研究開発税制は中小企業の実情を考慮した設計になっていないことをお話ししました。

今回は、これを裏付ける2つの調査結果がありますのでご紹介します。

黒字法人と欠損法人
(国税庁 平成25年度会社標本調査「税務統計から見た法人企業の実態」 -平成27年3月-より)

会社の区分黒字法人欠損法人合計
資本金1億円以下805,979社(31%)1,756,926社(69%)2,562,905社(100%)
資本金1億円超16,354社(76%)5,081社(24%)21,435社(100%)
合計822,333社(32%)1,762,007社(68%)2,584,340社(100%)

資本金が1億円超の会社の76%が黒字であるのに対して、 資本金1億円未満の会社で黒字なのは、わずか31%です。
このことから、中小企業が研究開発減税を受けるチャンスは大企業に比べて非常に少ないことが分かります。

製造業の売上高経常利益率
(日本銀行 平成27年9月企業短期経済観測調査―日銀短観9月調査―より)

会社の区分2011年度
2012年度2013年度2014年度2015年度(見込)
資本金2千万円以上1億円未満3.07%3.31%3.64%3.83%3.93%
資本金1億円以上10億円未満4.13%4.01%4.85%4.74%4.96%
資本金10億円以上4.11%4.64%6.45%7.38%7.59%

この調査結果は、企業規模が小さいほど利益率、 すなわち収益性が低いことを明確に示しています。
このことから中小企業は、黒字を計上して研究開発減税の適用を受けることができたとしても、利益水準が低いために法人税額の25%という税額基準額で打切りにされてしまい、研究開発費の支出額に見合った控除を受けられることは、大企業に比べて少ないと考えられます。

赤字会社が多いことと共に、中小企業の収益性が低いことが、研究開発税制による減税総額の93%を大企業が享受しているという結果となっているのではないでしょうか。

以上の2つの調査結果からは、企業の研究開発活動を税制面から支援するためには、控除限度額(税額基準額)を、企業の規模などによって違いを設けることや、その年度の法人税額から控除し切れなかった金額は、翌年度以降の法人税額から控除するなどの措置を講ずることが実態に即していると言えます。

具体的には、中小企業については少なくとも次の2つの措置を講ずる必要があると考えます。

1.税額控除限度額(税額基準額)を引き上げる

研究開発費(試験研究費)の支出額に対して12%の控除率という中小企業に対する優遇措置は、現実的には収益性の高い中小企業にしか効果は及ばないと思います。
むしろ税額基準額を引き上げる方が、中小企業全体に対して効果が及び易くなるのではないでしょうか。

2.控除し切れなかった金額の繰越控除を認める(翌年度以降数年間の法人税額から順次控除する)

これらの措置を講ずることによって、中小企業にとっても研究開発費の支出額に見合った税額控除を受けられる可能性が広がり、企業規模間でバランスのとれた、真に研究開発活動を促進する税制になると考えます。

日本を除く主要国では、その年度の法人税額から控除しきれなかった金額は、
① 翌年度以降の法人税額から控除する
② 中小企業については、現金で還付受けることができる
などの措置が講じられています。

以下に、いくつかの主要国の
①税額控除限度額(税額基準額)と、
②その年度の法人税額から控除しきれなかった場合の措置などを、簡単に紹介しておきます。

主要国の研究開発税制
(経済産業省 平成25年度「海外主要国における研究開発税制等に関する実態調査」、平成24年度「海外主要国の研究開発税制及びイノベーションボックス税制に関する実態調査」より作成)

※ドイツには、現在のところ研究開発に対する減税措置はないもようです。
※イギリス、中国、シンガポールは、税額控除に替えて研究開発費の金額の一定割合を課税所得を計算するときに追加して損金算入する方式を採っています。

1 控除限度額(税額基準など)

日本法人税額の25%
アメリカ法人税額の75%と、法人税額から暫定ミニマム税額を差引いた金額のいずれか小さい金額
(実際はもっと複雑なものです 単純化しています)
カナダなし
フランスなし
韓国なし
オーストラリアなし

日本とアメリカ以外は、法人税額の一定割合までしか控除を認めないとする制限はありません。
法人税額と同額まで控除ができます。

2 その年度の法人税額から控除しきれなかった場合の措置  

日本① 繰越控除
② 繰戻し還付
③ 現金還付
なし
なし
なし
アメリカ① 繰越控除
② 繰戻し還付
③ 現金還付
20年
1年
なし
カナダ① 繰越控除
② 繰戻し還付
③ 現金還付
20年
3年
中小企業のみ、原則として全額還付
フランス① 繰越控除
② 繰戻し還付
③ 現金還付
3年
なし
3年間の繰越控除後に未控除残額がある場合は、還付される
(中小企業等は、即時還付を受けることができる)
韓国① 繰越控除
② 繰戻し還付
③ 現金還付
5年
なし
なし
オーストラリア① 繰越控除
② 繰戻し還付
③ 現金還付
無期限
なし
中小企業のみ45%が還付される

日本を除く各国には、繰越控除制度があります。 最短は韓国の5年、最長はオーストラリアで無期限の繰越ができます。 フランスは、3年の繰越期間内に控除し切れなかった金額は現金で還付されます。
さらに、カナダ、フランス、オーストラリアでは、 中小企業に対して現金還付の措置が講じられています。

※追加損金算入方式を採っている国
この方式では、欠損金の繰越控除の期限まで繰越税額控除と同じ効果がある。

イギリス① 欠損金の繰越期間
② 繰戻し還付
③ 現金還付
無期限
1年
部分的な還付を選択できる
中国① 欠損金の繰越期間
② 繰戻し還付
③ 現金還付
5年
なし
なし
シンガポール① 欠損金の繰越期間
② 繰戻し還付
③ 現金還付
無期限
1年(上限あり)
部分的な還付を選択できる

イギリスとシンガポールは、無期限の繰越控除ができるのと同じ効果があります。
また、追加損金算入方式では、税額基準による控除額の制限はありません。
以上から、日本の研究開発税制が、諸外国の同税制に比べて著しく劣ったものであることが分かります。

「研究開発」は、税務や会計において特殊な分野です。
研究開発に関する税務や会計は、当事務所の得意分野です。
内閣府や文部科学省の政策立案担当の方々が当事務所を訪れたこともあります。

「試験研究費の特別控除(法人税額の特別控除)」制度を検討している企業は、
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2018年6月11日|カテゴリー「研究開発税制についてのコラム
研究開発税制1
税理士 兵頭始 著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始
控除限度額の拡大と繰越控除制度の創設

研究開発税制(税法上の言い方は「試験研究税制」)とは、企業(個人・法人を問いません)が行う研究開発活動を支援するために、研究開発活動にかかった経費のうち税法で定める要件に該当するものを基礎として算出した金額だけ、法人税を減額する制度のことをいい、この中にはいくつかの措置があるのですが、通常は研究開発税制(試験研究税制)というと、 研究開発費のうち税法で定める条件に適合する金額の10%前後の金額だけ法人税を減額する措置を言います。
これを、「試験研究費の総額に係る税額控除」と言います。

特別控除額(減税額)
資本金が1億円以下の会社および個人その年度の「試験研究費」の12%
(但し、その年度の法人税額・所得税額の25%が限度)
資本金が1億円を超える会社売上高に対する試験研究費の割合に応じてその年度の「試験研究費」の
8~10%(但し、その年度の法人税額の25%が限度)


「試験研究費の特別控除」の対象となる研究開発費とは、研究開発のためにかかった、材料費、人件費、経費と、研究開発を他の会社などに委託した場合の委託研究費です。

また、研究開発専門の社員がいない会社でも、この制度の適用は受けられます。
中小企業では、製品の製造や加工に携わっている社員が、必要に応じて新製品・新技術の開発や既存の製品・技術の改良活動をするのが普通ではないでしょうか。

この減税制度の利用状況について国が行った調査がありますので、少し加工してご紹介します。

研究開発減税(「試験研究費の総額に係る税額控除」)の利用状況
(財務省「法人税関係租税特別措置の適用実態調査(平成27年2月国会提出)」より)
会社の区分利用会社数減税額(全体の金額)1社当りの減税額
資本金1億円以下5,171(60%)21,415百万円( 7%)4,141千円
資本金1億円超(資本金1億円以下の子会社を含む)3,504(40%)269,827百万円(93%)77,005千円
合計8,675(100%)291,242百万円(100%)33,573千円


この減税制度を利用している会社の60%は、資本金1億円以下の会社です。

しかし、金額で見ると、研究開発減税総額の93%は資本金が1億円を超える会社が享受しています。

減税の恩恵の93%を資本金が1億円を超える会社が享受している理由の一つは、減税を受けるための要件が、「中小企業にとって利用しやすいものになっていない」ことです。

「試験研究費の総額に係る税額控除」には、制限があります。

研究開発費(試験研究費)を支出した年度の法人税額の25%が控除額の上限となっています。

この金額を超える金額は切り捨てられます。
つまり、赤字会社や繰越欠損金があるために法人税がゼロの会社には適用される余地はありません。

(注) 日本を除く主要国では、支出した年度で法人税額から控除し切れなった金額は、翌年度以降の法人税額から控除されるか
  又は現金で還付される等の措置が講じられています。

中小企業には赤字法人が多い上に、研究開発を活発に行った年度はその分利益を圧迫するために、欠損(赤字)になるか、利益を計上しても平年に比べて少額となることが多くなります。

赤字法人が多く、さらに利益水準が低い、多くの中小企業にとって、活発な研究開発活動をしても(多くの研究開発費を支出しても)支出した金額に見合った控除を受けるチャンスは、大企業に比べて非常に少ないのが現状と思います。

多くの場合、研究開発の成果が企業業績に反映されるのは、翌年度以降になります。
大企業では、その年度の研究開発費に対する税額控除を、過年度の研究開発活動の成果が現れたことによって得られた利益に対する法人税から控除を受ける、というサイクルが継続することが多いと思いますが、中小企業は基本的にニッチ産業であるために、同時に多くの種類の研究開発活動をすることが困難なことが多いため、大企業に比べて、このサイクルが継続しない場合が多いと考えられます。

つまり現在の研究開発税制は、中小企業の実態を考慮しない設計になっています。

このため、中小企業の新製品開発などに対する税制面での後押しは、広く行き渡ってはいません。

研究開発税制は、多くの中小企業にとって研究開発活動を促進する誘因とはなっていないと思います。
それについては次回お話しをさせていただきます。


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2018年6月10日|カテゴリー「研究開発税制についてのコラム
研究開発税制(試験研究費の総額の控除)
税理士 兵頭始 著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始
わが国の法人税法は、資本金額が1億円以下の会社を「中小法人」、資本金額が1億円を超える会社を「大法人」として位置づけ、「中小法人」に対しては優遇措置を講じています。
ここでは、
研究開発税制における「中小法人」と「大法人」の違いを説明します。

1.税額控除の対象となる試験研究費の範囲・・・同じ

2.控除率(支出基準額)・・・違う
資本金1億円以下の会社
一律に12%(地方税を併せると14%~14.5%・・・下記5で説明)
資本金1億円超の会社
売上高に対する試験研究費の割合に応じて8%から10%
3.控除限度額(税額基準額)・・・同じ(法人税額の25%)

※但し、資本金1億円以下の会社では、800万円以下の所得(利益)に対して15%の軽減税率(通常は23.9%)により法人税を計算するため、所得が同額の場合は税額基準額は資本金1億円超の会社の方が多くなる。
(最高178,000円)

4.その年度の法人税額から控除しきれなかった場合の繰越控除または繰戻し還付
  ・・・同じ(日本では、繰越控除も繰戻し還付も認められていない)

※1 平成26年度までは、1年間の繰越控除が認められていたが、27年度から認められなくなった。

※2 諸外国においては、その年度の法人税額から控除し切れなかった場合には、翌年度以降の法人税額から控除できることになっている。最短はフランスの3年、最長はオーストラリアの無期限

5.地方税(都道府県民税、市町村民税)の減税・・・違う
資本金1億円以下の会社
地方税の課税標準となる法人税額は、試験研究費の特別控

この結果地方税においても試験研究費の額の2%から2.5%の金額が減税となる

法人税と地方税を併せると、14.%から14.5%の控除率となる

資本金1億円超の会社
地方税の課税標準となる法人税額は、試験研究費の特別控除をする前の金額である

したがって、資本金が1億円を超える会社では、地方税においては減税はない

設例

A社 資本金 1億円
B社 資本金 2億円
売上高 10億円 (A社、B社とも)
課税所得 2億2千万円 (  同上  )
試験研究費 1億円 (  同上  )
1.支出基準額(試験研究費×控除率)

A社 1億円×12%=12,000千円
B社 1億円×10%=10,000千円

2.税額基準額(法人税額×25%)

A社 8百万円×15% = 120万円

2億1千2百万円×23.9%=5,067万円
法人税額 5,187万円×25%=1,297万円

B社 2億2千万円×23.9%=法人税額5,258万円×25%=1,315万円

3.減税額

A社(資本金1億円)

法人税        支出基準額1,200万円≦税額基準額1,297万円 ∴1,200万円
住民税・地方法人税  1,200万円×(住民税16.3%+地方法人税4.4%)=248万円
減税額の合計   1,448万円

B社(資本金2億円)

法人税        支出基準額1,000万円≦税額基準額1,315万円  ∴1,000万円
住民税・地方法人税  減税は適用されない               0万円
減税額の合計  1,000万円

以上により、利益の水準が同じであれば、資本金1億円以下の会社が大きな減税を受けられることが解ります。
※しかし、現実には、中小会社は利益水準が低い会社が多いため、上記2の税額基準額によって足切りとなり、
 この優遇措置を十分に受けられることは少ないと思います。

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