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2018年5月31日|カテゴリー「研究開発税制についてのコラム
効果が弱い研究開発税制
税理士 兵頭始 著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始
前回は、研究開発税制が多くの中小企業にとって研究開発活動を促進する誘因とはなっていないということをお話ししました。
今回は、これを裏付ける2つの調査結果がありますのでご紹介をいたします。

税務統計から見た法人企業の実態
資本金が1億円以上の会社の53%が黒字であるのに対して、資本金1億円未満の会社で黒字なのは、わずか27%です。
このことから、中小企業が研究開発減税を受けるチャンスは大企業に比べて非常に少ないことが分かります。

平成25年6月企業短期経済観測調査
この調査結果は、企業規模が小さいほど利益率、すなわち収益性が低いことを明確に示しています。

このことから、中小企業は、黒字を計上して研究開発減税の適用を受けることができたとしても、利益水準が低いために法人税額の20%(現在は2年間の特例で30%)という税額控除限度額で打ち切りにされてしまい、研究開発費の支出額に見合った控除を受けられることは、大企業に比べて少ないと考えられます。

赤字会社が多いことと共に、中小企業の収益性が低いことが、研究開発税制による減税総額の95%を大企業が享受しているという結果となっているのではないでしょうか。

以上の2つの調査結果からは、企業の研究開発活動を税制面から支援するためには、控除限度額(税額基準額)や繰越控除が可能な年数を、企業の規模などによって違いを設けることが、実態に即していると言えます。
具体的には、中小企業については次の2つの措置を講ずる必要があります。

1.
税額控除限度額(税額基準額)を引き上げる

2.控除し切れなかった金額の繰越控除を認める
(翌年度以降数年間の法人税額から順次控除する)

これらの措置を講ずることによって、中小企業にとっても研究開発費の支出額に見合った税額控除を受けられる可能性が広がり、企業規模間でバランスのとれた真に研究開発活動を促進する税制になると考えます。

「研究開発」は、税務や会計において特殊な分野です。
研究開発に関する税務や会計は、当事務所の得意分野です。
内閣府や文部科学省の政策立案担当の方々が当事務所を訪れたこともあります。

「試験研究費の特別控除(法人税額の特別控除)」制度を検討している企業は、
専門家である税理士にご相談いただくことをお勧めいたします。

ご相談は下記バナーよりお問合せフォームにてお申込いただくか、
専用フリーダイヤルからお気軽にお申込下さい。
2018年5月30日|カテゴリー「研究開発税制についてのコラム
効果が少ない_研究開発税制
税理士 兵頭始 著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始

控除限度額の拡大と繰越控除制度の創設

研究開発税制(税法上の言い方は「試験研究税制」)とは、企業(個人・法人を問いません)が行う研究開発活動を支援するために、研究開発活動にかかった経費のうち税法で定める要件に該当するものを基礎として算出した金額だけ、法人税を減額する制度のことをいい、この中にはいくつかの措置があるのですが、通常は研究開発税制(試験研究税制)というと、 研究開発費のうち税法で定める条件に適合する金額の10%前後の金額だけ法人税を減額する措置を言います。
これを、
「試験研究費の総額に係る税額控除」と言います。

特別控除額(減税額)

資本金が1億円以下の会社および個人
その年度の「試験研究費」の12%
(但し、その年度の法人税額・所得税額の30%が限度)
資本金が1億円を超える
会社
その年度の「試験研究費」の8~10%
(但し、その年度の法人税額の30%が限度)
「試験研究費の特別控除」の対象となる研究開発費とは、研究開発のためにかかった、材料費、人件費、経費と、研究開発を他の会社などに委託した場合の委託研究費です。

また、研究開発専門の社員がいない会社でも、この制度の適用は受けられます
中小企業では、製品の製造や加工に携わっている社員が、必要に応じて新製品・新技術の開発や既存の製品・技術の改良活動をするのが普通ではないでしょうか。

年商10億円クラスまたは年商10億円に手が届く製造業であれば、必ずと言ってよい程、今述べた税額控除の対象となる 「試験研究」をしていると思います。

この減税制度の利用状況について国が行った調査がありますので、少し加工してご紹介します。

研究開発減税(「試験研究費の総額に係る税額控除」)の利用状況

(国税庁 平成22年度会社標本調査「税務統計から見た法人企業の実態」より)
税務統計から見た法人企業の実態
この減税制度を利用している会社の60%以上は、資本金1億円以下の会社です。
しかし金額で見ると、研究開発減税総額の95%は資本金が1億円を超える会社が享受しています。

減税の恩恵の95%を資本金が1億円を超える会社が享受している理由の一つは、減税を受けるための要件が、「中小企業にとって利用しやすいものになっていない」ことです。

「試験研究費の総額に係る税額控除」には、2つの制限があります。

 研究開発費(試験研究費)を支出した年度の法人税額の20%(現在は特例で30%)が控除額の上限となっています。

つまり、赤字会社や繰越欠損金があるために法人税がゼロの会社には適用される余地はありません。

 研究開発費(試験研究費)を支出した年度で控除できないか、または控除し切れなかった金額は翌年度の法人税額から、 翌年度の試験研究費の税額控除をした後に控除限度額の残(余り)がある場合に限り、その残額までの範囲内で控除されます。

中小企業には赤字法人が多い上に、研究開発を活発に行った年度はその分利益を圧迫するために、欠損(赤字)になるか、利益を計上しても平年に比べて少額となることが多くなります。

赤字法人が多く、さらに利益水準が低い、多くの中小企業にとって、活発な研究開発活動をしても(多くの研究開発費を支出しても)支出した金額に見合った控除を受けるチャンスは、大企業に比べて非常に少ないのが現状と思います。

多くの場合、研究開発の成果が企業業績に反映されるのは、翌年度以降になります。
大企業では、その年度の研究開発費に対する税額控除を、過年度の研究開発活動の成果が現れたことによって得られた利益に対する法人税から控除を受ける、というサイクルが継続することが多いと思いますが、中小企業は基本的にニッチ産業であるために、同時に多くの種類の研究開発活動をすることが困難なことが多いため、大企業に比べて、このサイクルが継続しない場合が多いと考えられます。

つまり現在の研究開発税制は、中小企業の実態を考慮しない設計になっています。

このため、中小企業の新製品開発などに対する税制面での後押しは、広く行き渡ってはいません。

研究開発税制は、多くの中小企業にとって研究開発活動を促進する誘因とはなっていないと思います。
それについては次回お話しをさせていただきます。

「研究開発」は、税務や会計において特殊な分野です。
研究開発に関する税務や会計は、当事務所の得意分野です。
内閣府や文部科学省の政策立案担当の方々が当事務所を訪れたこともあります。

「試験研究費の特別控除(法人税額の特別控除)」制度を検討している企業は、
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2018年5月29日|カテゴリー「研究開発税制についてのコラム
研究開発税制_町工場
税理士 兵頭始 著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始
(一つのテーマに一か月以上従事の要件)

研究開発税制(税法上の言い方は「試験研究税制」)とは、企業(個人・法人を問いません)が行う研究開発活動を促進するためのいくつかの措置を総称した用語なのですが、通常は、研究開発税制(試験研究税制)と言うと、研究開発活動にかかった費用の10%前後の金額だけ法人等を安くする措置を指します。

これを、
「試験研究費の総額に係る特別控除」と言います。

特別控除額(減税額)

資本金が1億円以下の会社     その年度の「試験研究費」の12%
(但し、その年度の法人税額の30%が限度)

資本金が1億円を超える会社    その年度の「試験研究費」の8~10%
(但し、その年度の法人税額の30%が限度)

「試験研究」と一口に言うと、博士号を持った科学者や技術者がしているような高度な研究や、大企業が研究所で研究開発の専門職の社員にさせているような研究開発をイメージしがちですが、税額控除制度の対象となる試験研究は、これらの研究から、町工場で行っている製品や加工技術のちょっとした改良までを含む非常に範囲の広いものです。
また、
研究開発専門の社員がいない会社でも、この制度の適用は受けられます
中小企業では、製品の製造や加工に携わっている社員が、必要に応じて新製品・新技術の開発や既存の製品・技術の改良活動をするのが普通ではないでしょうか。

年商10億円クラスまたは年商10億円に手が届く製造業であれば、必ずと言ってよい程、今述べた税額控除の対象となる「試験研究」をしていると思います。
この減税制度の利用状況について国が行った調査がありますので、少し加工してご紹介します。


研究開発減税(「試験研究費の総額に係る税額控除」)の利用状況

(国税庁 平成22年度会社標本調査「税務統計から見た法人企業の実態」より)
税務統計から見た法人企業の実態
この減税制度を利用している会社の60%以上は、資本金1億円以下の会社です。
しかし、金額で見ると、研究開発減税総額の95%は資本金が1億円を超える会社が享受しています。

減税の恩恵の95%を資本金が1億円を超える会社が享受している理由の一つは、減税を受けるための要件が、「中小企業にとって利用しやすいものになっていない」ことです。

「験研究費の特別控除」の対象となる研究開発費とは、研究開発のためにかかった、材料費、人件費、経費と、研究開発を他の会社などに委託した場合の委託研究費です。

これらの、材料費、人件費、経費、および委託研究費のなかで、研究開発をする殆どの企業(委託研究に依存している場合を除きます)にとって中心となるのは、人件費です。

研究開発を外部に委託している場合、その「委託研究費」は特別控除の対象となるのですが、中小企業が他の会社に主たる研究開発を委託することは、グループ会社間での委託研究を除いてはあまりないことです。
中小企業に限らず研究開発減税(試験研究費の特別控除)の中心になるのは、人件費だと思います。

ところが、研究開発減税(試験研究費の特別控除)の「対象となる人件費」は、研究開発だけに従事する社員の人件費に限られていました。

平成15年、中小企業庁の働きかけにより研究開発専門の社員でなくても、一つの研究開発テーマに1か月以上(実働で20日以上)専ら従事した社員がいる場合には、その社員の人件費のうち研究開発に従事した時間に相当する金額を、研究開発減税(試験研究費の特別控除)の対象とすることが出来るようになりました。
これは、中小企業にとって画期的な「改正」でした。

このことによって、中小企業の研究開発減税額は大きく伸びました。
しかし、これだけではまだまだ不十分です。
いわゆる「研究開発型の中小企業」でなくても、研究開発活動を行っている企業は数多くありますが、「一人の社員が一つの研究開発テーマに1か月以上(実働20日以上)従事」するとなると、当てはまる中小企業はかなり少なくなると思います。

この要件を満たそうとすると、

「数人でプロジェクトチームを編成して行うことが望ましい試験研究を、1人の社員で行う」

といった無理をすることになるのではないでしょうか。
平成25年度の税制改正で研究開発費税制の拡充が挙げられていますが、ぜひ人件費控除の要件を緩和してほしいものです。

「研究開発」は、税務や会計において特殊な分野です。
研究開発に関する税務や会計は、当事務所の得意分野です。
内閣府や文部科学省の政策立案担当の方々が当事務所を訪れたこともあります。

「試験研究費の特別控除(法人税額の特別控除)」制度を検討している企業は、
専門家である税理士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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